杏里 - TIMELY!! (1983)

大瀧詠一から始まったシティポップ熱にぼやっと火を灯したのがこの一枚。杏里のTIMELY!!だ。
元はと言えば角松敏生が織り成すベースラインが好きで、中でもWINDY SUMMERの曲中に響き渡るベースラインと、如何にも夏の空気を表すメロディに惚れたことが大きかった。

音ばかりに気を配っているが、そもそも歌詞が麗しい。「遠ざかる浜辺に手を振って」なんて、かなり有り触れている気がするが、昭和にしか書けないようなリリック、時代が生み出した産物では無いだろうか。

優しく甘いクルーナーな杏里の声とは対照的に、暴虐的で激しい楽器隊の音がここまでマッチングするとは思いもしなかった。山下達郎や竹内まりやなどは良い意味で扁平だし、世界観も雄大で申し分無いのだけれど、そういった方向性とはまた違う世界に土着した味わいを感じる。彼女のような歌い方をするアーティストなんて探せば幾らでも居る気がするが、曲そのものの質感は右に出る者が居ない。
TIMELY!!のアルバムに封入された曲はどれも暑く白く、青い夏を保っている。

本当はHeaven Beachも手に入れたいし、手に入れてこそ完成形だと感じている節もあるのだが、ちょっとしんみりし過ぎている上に、どこか哀しさのアクセントが強過ぎてまだ購入には至っていない。いつか手にしたい。

私だけの、美しく切ない、夏を象徴するアルバム。

私のレコード録

空蝉 夏目 と 惰眠 というペンネームで小説やエッセイを書いたり、フィルムカメラを嗜んでいます。2000年生まれの人間から見た昭和曲を、ヴァイナル盤を通して書き綴っていきます。

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