YMO - Service (1983)

YMOが散開する前、つまりはYMOの形態として最後のアルバムとなったService。Solid State Survivor を始めとする全盛のアルバムとはだいぶ思考が変わり、それらのアルバムを敬愛していた人からすれば物足りなかったのでは無かろうか。テクノポップを普及させ、一躍時の人となった彼らだけど、もともと真にやりたい路線では無かったのではないかという邪推をしてしまう。

自分自身も、四年間ほどRYDEENやTechnopolisを聴いて育った。中学生当時、Serviceの音楽の良さがちっとも分からなかったのだ。コンパクト過ぎて、抽象的過ぎるその音楽は一周回って嫌いであった。然し二十代になってレコードを買う際に、YMOのどのアルバムよりも欲しいと思ったのがコレ。理由は分からない。ふわりと漂うノスタルジックに感化されてか、購入していた。
Limbo から始まり、曲と曲の間にはS.E.T.という小ネタが組み込まれている。確実にスネークマンショーの延長だと思うが、スネークマンショー程の煌めきも無く、大したオチも感じられない詰まらないネタ。現役世代に話を聞いても分からないネタが多かったとのことなので、人に理解される為に作ってないのだろうなと思う。前衛的、この一言に尽きる。

ただ、S.E.T.にインパクトが無いお陰で一曲一曲を聴き込むことが出来、ネタの世界観が邪魔をして来ないところを見ると、これはこれで完成されているのでは無いだろうか。Chinese Whispers を除いてほとんどの曲がミニマムファンクなので、聴きやすさをモットーにせねばならない。逆にここにスネークマンショーばりのネタを持ってきていたなら、たちまちネタの方にフォーカスが行ってたことだろう。

このアルバムの裏話として、ほとんど3人で完成された曲が無かった、らしい。一人若しくは二人で完成させたものがほとんどで、最終を飾るperspectiveに至っては教授の独壇場と言ってもいいかもしれない。なんだか " 別れを切り出したのは自分だけど別れるのが惜しくてモジモジしている思春期の少年 " という感じがしてしまう。すごく好きな曲だけれど。幸宏が歌っても良かったのでは、、、

3人で完成して居ない曲の並び、そのバラツキでさえ綺麗にまとめられてしまうのだから、トータルエンジニアの力は凄まじい。

S.E.T. について、前述でとやかく言ったけれど、個人的に好きだったものがラストの S.E.T. 家族の会話が聞こえており、茶の中に立つ茶柱を見て談笑する、というたった30秒程のカットなのだが、初めて聴いた時割と本気で涙が流れた。まるで芸能人の追悼式典でも見ているかのような思いだった。アルバムのラストを意味するだけでなく、YMOとしての最後を飾る良きエンドロールだと思う。
教授のperspectiveのみで終わって居たらそれはそれで味気なかったのかもしれない、本当にこれが最善の終わり方だったのであろう。

かつて一番嫌いだったアルバムが、今では一番ターンテーブルに乗るアルバムになっている。テクノポップで湧いた世の中から徐々に離れつつある時代、行先も何も見えてこないアルバムだったけれど、このアルバムこそ未来人に語りかけるべく作られた3人からの " Service " なのかもしれない。

私のレコード録

空蝉 夏目 と 惰眠 というペンネームで小説やエッセイを書いたり、フィルムカメラを嗜んでいます。2000年生まれの人間から見た昭和曲を、ヴァイナル盤を通して書き綴っていきます。

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